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名古屋高等裁判所 平成4年(ネ)64号 判決 1992年11月04日

控訴人

杉本けさ子

杉本晴美

杉本暁美

杉本純一

杉本いずみ

右五名訴訟代理人弁護士

松下泰三

被控訴人

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

五十嵐廣晏

被控訴人

日新火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

縄船友市

被控訴人

興亜火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

笹哲三

被控訴人

富士火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

葛原寛

右四名訴訟代理人弁護士

木村静之

被控訴人

日本生命保険相互会社

右代表者代表取締役

伊藤助成

右訴訟代理人弁護士

坂本秀文

長谷川宅司

織田貴昭

松本好史

主文

1  本件控訴及び控訴人杉本けさ子を除くその余の控訴人らの当審における拡張請求をいずれも棄却する。

2  当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一当事者双方の申立

1  控訴人ら

「(一) 原判決を取り消す。

(二) 控訴人ら各自に対し、

(1)  被控訴人東京海上火災保険株式会社(被控訴人東京海上)は金四〇〇万円、

(2)  被控訴人日新火災海上保険株式会社(被控訴人日新火災)は金二八〇万円、

(3)  被控訴人興亜火災海上保険株式会社(被控訴人興亜火災)は金八〇万円、

(4)  被控訴人富士火災海上保険株式会社(被控訴人富士火災)は金四四万円、

及びこれらに対する平成二年二月三日から支払ずみまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

(控訴人杉本けさ子を除くその余の控訴人らの請求は、当審における請求の拡張を含む。)

(三) 被控訴人日本生命保険相互会社(被控訴人日本生命)は、控訴人杉本けさ子に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する平成二年二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

(四) 訴訟の総費用は被控訴人らの負担とする。」

との判決及び仮執行の宣言を求めた。

2  被控訴人ら

主文同旨の判決を求めた。

二事案の概要

本件は、杉本茂生(茂生)を被保険者とする後記保険契約の保険者である被控訴人らに対し、茂生の法定相続人又は死亡保険金の受取人である控訴人らが保険金の支払を求めた事案である。原審は、請求を全部棄却した。

1  争いのない事実

(一)  茂生は、被控訴人らとの間で、被控訴人らを保険者・茂生を被保険者とする次のとおりの保険契約を締結した。

(1) 被控訴人東京海上を保険者とする傷害保険契約(昭和六二年八月一三日締結)

① 死亡保険金受取人 指定なし

② 保険金

交通事故死亡の場合二〇〇〇万円

③ 保険期間 同日から昭和六七年(平成四年)八月一三日まで

(2) 被控訴人日新火災を保険者とする自動車保険契約(昭和六三年九月七日締結)

① 死亡保険金受取人 指定なし

② 保険金

自損事故死亡の場合一四〇〇万円

③ 保険期間 同月二九日から昭和六四年(平成元年)九月二九日まで

④ 被保険車両 自家用貨物自動車(車台番号・YR二六―〇〇二一六七〇、登録番号・尾張小牧四四な四八五五。本件車両)

(3) 被控訴人興亜火災を保険者とする長期総合保険契約(昭和六二年一〇月一九日締結)

① 死亡保険金受取人 指定なし

② 保険金

交通傷害死亡の場合四〇〇万円

③ 保険期間 同日から昭和六七年(平成四年)一〇月一九日まで

(4) 被控訴人富士火災を保険者とする長期総合保険契約(昭和六三年三月九日締結)

① 死亡保険金受取人 指定なし

② 保険金

交通事故死亡の場合二二〇万円

③ 保険期間 同日から昭和六八年(平成五年)三月九日まで

(5) 被控訴人日本生命を保険者とする生命保険契約(昭和五四年七月二三日締結)

① 死亡保険金受取人

控訴人杉本けさ子

② 保険金 災害割増特約二〇〇〇万円、傷害特約五〇〇万円

③ 保険期間 同日から昭和八四年(平成二一年)七月二二日まで

(二)  茂生は、平成元年五月八日午前八時頃、愛知県江南市高屋町本郷四七番地先路上を本件車両を運転して進行中、同車両を右路上に停車中の自家用貨物自動車(滝車両)に接触させ、右車両の荷下ろし作業中の滝政則に傷害を負わせるという事故を起こした(本件事故)。また、茂生は、同日午後六時頃、脳内出血により死亡した。

(三)  右(一)(1)ないし(4)の保険契約においてその内容の一部とされた約款の定によると、死亡保険金受取人の指定がないときは、右保険金を被保険者の相続人に支払うこととされている。そして、控訴人らが茂生の法定相続人(控訴人杉本けさ子は茂生の妻、その余の控訴人らは茂生の子)である。

2  争点

前記1(一)掲記の保険契約の保険金支払事由((1)ないし(5)の各②に係る保険事故)が(1)ないし(4)については「急激かつ偶然な外来の事故によって被った傷害により、その直接の結果として死亡したこと」であり、(5)については「不慮、すなわち、偶発的な外来の事故を直接の原因として死亡したこと」であることは当事者間に争いがないところ、控訴人らは、(一) 茂生の死亡原因の脳内出血は本件事故による身体的・精神的衝撃により生じたものであるか、(二) 本件事故直前に生じた軽度の脳内出血が本件事故によって増悪し死亡という結果に至ったものであるとして、茂生の死亡は右の保険金支払事由に該当すると主張する。

三争点に対する判断

<書証番号略>、原審証人小坂秀人の証言、原審における鑑定の結果及び弁論の全趣旨を併せると、次のとおり認めることができ、右認定に反する証拠はない。

1  本件事故現場は、人家の密集する市街地を南北に通じる幅員約6.8メートル(片側3.4メートル)のアスファルト舗装された市道(本件道路)上である。本件道路は、本件現場付近では平坦な直線であり、平成元年五月八日の本件事故当時の天候は曇りであって見通しは良く、路面は乾いていた。また、本件事故当時、本件現場には、滝政則が滝車両(車幅1.62メートル)を北側進行方向の左端に寄せて北向きに停車し、後部荷台の扉を跳ね上げて荷下ろし作業をしていた。

2  茂生は、本件車両(車幅1.67メートル)を運転して本件道路を北進して本件現場に停車中の滝車両の手前に至った。当時、反対車線を南進して本件現場手前に至った車両(小坂秀人運転)からみると、本件車両の速度は遅いように見えたが、滝車両の手前で停止する様子もなく、かえって対向車線にせり出すようにして進行し、危険が感じられたので、小坂は、その車両を本件現場手前で停車させた。ところが、本件車両は、その直後、滝車両の右側後部にドーンと大きな音を立てて衝突し、滝車両のライトを破損させたほか、右側スライドドアを飛ばせてしまい、更に、その付近で荷下ろし作業中の滝政則に接触して同人に傷害を与えた(なお、この間、茂生がブレーキ操作をしたかどうかは明らかではない。)。

3  茂生は、本件事故後、本件車両から降りてきたものの、酔っ払ったような歩き方やそぶりをし、路上でしゃがみ込むようにして倒れ、ろれつが回らないような様子を示したので、救急車で昭和病院に運ばれた。

茂生は、外傷は軽微であったが、左片麻痺と意識障害があって右脳内出血が多く、危険な状態で推移して、同日午後六時五分死亡した。右意識障害は、脳内出血によるものであるが、脳内出血の原因が外傷性のものであるとはみられない。

4  茂生は、遅くとも昭和六〇年から高血圧症の加療を続けており、昭和六三年には言語障害を来すほどの不安定な状態にあったほか、血圧の動揺がみられたが、その後、薬剤の投与により一応の安定をみた(なお、本件事故の直前において茂生が脳内出血を惹起する可能性の程度がどのようなものであったかについての的確な資料はない。)。

以上の認定事実によると、本件事故に至る経緯と態様は運転者としての行動として異常なものがあることは少なくとも明らかであり、このことに右認定の茂生の既往歴と本件事故後の症状を併せると、本件においては、茂生が既往の高血圧症に起因する致命的な脳内出血を惹起し、その影響の下で本件事故に至った可能性も十分にあるものということができる。そうすると、茂生の死亡が前記保険金支払事由にいう「外来の事故」によって被った傷害の直接の結果又は「外来の事故」を直接の原因とするものということはできず、本件全証拠に照らしても、他にこの点を認めるべき資料はない。

してみると、控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であり、棄却を免れない。

よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がなく、また、当審における拡張請求は失当であるから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横畠典夫 裁判官 園田秀樹 裁判官 園部秀穂)

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